Kotori Kawashima

Webフリーランスディレクター
/アーティスト/モデル/タレント

透明な履歴書Transparent Resume

2026.01.07

第3話|白血病の疑いと月収38円。地方OLのキャリアが消滅した日

履歴書の空白に隠された、痛みと再生の物語

地方でOLをしていた頃、私の未来図は「普通」というレールの上にあった。
週末にはモデルの仕事もこなしながら、いずれは結婚し、穏やかな家庭を築く。

どこにでもある、ごく平均的な幸せ。

その未来が、ある日を境に、音もなく途切れていく。
これは、社会の中で静かに消えていったキャリアと、
履歴書には書かれなかった時間の記録だ。

普通のレールが途切れた日

最初は、ただの風邪だと思っていた。
けれど熱は十日以上下がらず、口の中は口内炎で爛れ、やがて皮膚には、痣という言葉では足りないほど濃い、黒い塊のような斑点が全身に広がり始めた。

鏡に映る自分は、昨日までの自分ではなかった。
何かが内側から、確実に身体を壊していく感覚だけがあった。

医師の口から告げられた言葉は、あまりに淡々としていた。

白血病に類似する疾患の疑いがあります。
骨髄検査、遺伝子検査、経過観察。
状況次第では、輸血や瀉血も検討します。

これは、病気の話ではなく、
人生の話なのだと、その瞬間に理解した。

キャリアの強制終了と、月収38円

治療と検査に専念するため、仕事は続けられなかった。
名刺がなくなる。
職場からの連絡が途切れる。
社会的な私が、目に見える速度で消えていった。

一方で、生活は続く。
新幹線の往復代、高額な検査費、薬代。
生きるためのコストだけが、重くのしかかってくる。

私は在宅でできる仕事を探し、震える手でキーボードを叩いた。
フリーライター、ブログ。
社会と、かろうじて繋がっていたかった。

最初の月の報酬は、38円。

一か月、命を削って働いた結果が、38円だった。

通院が仕事になった日常

毎日は通院で埋まっていった。
それはまるで、病院という勤務先に毎日出勤しているような感覚だった。

診察券は増えていく。
一方で、肩書きは減っていく。

履歴書に生まれた空白。
そこには、病気と向き合っていた時間も、
生き延びようとしていた努力も記されない。

ただ、無職という二文字に変換され、
社会的な信用が静かに止まっていった。

がんばってるね、が一番つらかった

周囲からかけられた言葉の中で、
一番つらかったのは、がんばってるね、だった。

これ以上、何を頑張ればいいのか。
ベッドの上で呼吸をすることさえ、当時の私には闘いだった。

見えないキャリア。
見せない闘病。

私の履歴書が、
静かに、けれど確実に透明になり始めたのは、この頃からだった。

終わりに|透明になった時間へ

この時間は、失敗ではない。
ただ、履歴書に書けなかっただけだ。

見えない場所で、生きることを仕事にしていた日々。
社会が評価しない時間にも、人は確かに生きている。

透明な履歴書は、
その事実をなかったことにしないために生まれた。

これは、私の記録であり、
同じように見えない時間を生きた誰かのための、
静かな証明でもある。

  • Sound of Life

    物語のためのサウンドトラック

    「透明な履歴書」には、言葉にならない感情を託した「主題歌」があります。 限られた時間の中で録音された、祈りのような3つの旋律。 それぞれの物語の湿度に合わせて、静かに添えました。

  • Voice / Reading

    朗読:「透明な履歴書」

    (Coming Soon / 順次公開予定)

    川島琴里の声による朗読と、エピソードトーク。 現在、一つひとつの物語に音を灯す準備をしています。 完成したエピソードから、この場所で公開されていきます。

  • Join the Story

    読者参加企画:#あなたの透明な履歴書

    あなたの「影」の物語を、教えてください。 履歴書には書けなかった空白、誰にも言えなかった葛藤、そして再生の瞬間。
    ハッシュタグ #あなたの透明な履歴書 (または #TransparentResume)をつけて、SNSで言葉にしてみてください。 投稿された物語の一部は、今後このサイトやPodcastにて、川島琴里の声で紹介させていただく場合があります。

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    「透明な履歴書」は、単なる個人の記録ではありません。 現代社会のシステムからこぼれ落ちてしまった「見えない時間」や「個人の尊厳」に光を当てる、アート・プロジェクトです。
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著者川島琴里

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