地方でOLをしていた頃、私の未来図は「普通」というレールの上にあった。
週末にはモデルの仕事もこなしながら、いずれは結婚し、穏やかな家庭を築く。
どこにでもある、ごく平均的な幸せ。
その未来が、ある日を境に、音もなく途切れていく。
これは、社会の中で静かに消えていったキャリアと、
履歴書には書かれなかった時間の記録だ。
最初は、ただの風邪だと思っていた。
けれど熱は十日以上下がらず、口の中は口内炎で爛れ、やがて皮膚には、痣という言葉では足りないほど濃い、黒い塊のような斑点が全身に広がり始めた。
鏡に映る自分は、昨日までの自分ではなかった。
何かが内側から、確実に身体を壊していく感覚だけがあった。
医師の口から告げられた言葉は、あまりに淡々としていた。
白血病に類似する疾患の疑いがあります。
骨髄検査、遺伝子検査、経過観察。
状況次第では、輸血や瀉血も検討します。
これは、病気の話ではなく、
人生の話なのだと、その瞬間に理解した。
治療と検査に専念するため、仕事は続けられなかった。
名刺がなくなる。
職場からの連絡が途切れる。
社会的な私が、目に見える速度で消えていった。
一方で、生活は続く。
新幹線の往復代、高額な検査費、薬代。
生きるためのコストだけが、重くのしかかってくる。
私は在宅でできる仕事を探し、震える手でキーボードを叩いた。
フリーライター、ブログ。
社会と、かろうじて繋がっていたかった。
最初の月の報酬は、38円。
一か月、命を削って働いた結果が、38円だった。
毎日は通院で埋まっていった。
それはまるで、病院という勤務先に毎日出勤しているような感覚だった。
診察券は増えていく。
一方で、肩書きは減っていく。
履歴書に生まれた空白。
そこには、病気と向き合っていた時間も、
生き延びようとしていた努力も記されない。
ただ、無職という二文字に変換され、
社会的な信用が静かに止まっていった。
周囲からかけられた言葉の中で、
一番つらかったのは、がんばってるね、だった。
これ以上、何を頑張ればいいのか。
ベッドの上で呼吸をすることさえ、当時の私には闘いだった。
見えないキャリア。
見せない闘病。
私の履歴書が、
静かに、けれど確実に透明になり始めたのは、この頃からだった。
この時間は、失敗ではない。
ただ、履歴書に書けなかっただけだ。
見えない場所で、生きることを仕事にしていた日々。
社会が評価しない時間にも、人は確かに生きている。
透明な履歴書は、
その事実をなかったことにしないために生まれた。
これは、私の記録であり、
同じように見えない時間を生きた誰かのための、
静かな証明でもある。
「透明な履歴書」には、言葉にならない感情を託した「主題歌」があります。 限られた時間の中で録音された、祈りのような3つの旋律。 それぞれの物語の湿度に合わせて、静かに添えました。
川島琴里の声による朗読と、エピソードトーク。 現在、一つひとつの物語に音を灯す準備をしています。 完成したエピソードから、この場所で公開されていきます。
あなたの「影」の物語を、教えてください。 履歴書には書けなかった空白、誰にも言えなかった葛藤、そして再生の瞬間。
ハッシュタグ #あなたの透明な履歴書 (または #TransparentResume)をつけて、SNSで言葉にしてみてください。 投稿された物語の一部は、今後このサイトやPodcastにて、川島琴里の声で紹介させていただく場合があります。
「透明な履歴書」は、単なる個人の記録ではありません。 現代社会のシステムからこぼれ落ちてしまった「見えない時間」や「個人の尊厳」に光を当てる、アート・プロジェクトです。
本プロジェクトの趣旨に共感いただけるメディア様、研究者様、企業様からのお問い合わせを歓迎いたします。 (※本プロジェクトは、合同会社COTOLXの社会活動(CSR)の一環として運営されています)