Kotori Kawashima

Webフリーランスディレクター
/アーティスト/モデル/タレント

透明な履歴書Transparent Resume

2026.01.15

第5話|私はまだ生きているのに。ブルーシートの歌舞伎町

冬の歌舞伎町で突然の大量出血。路上に倒れた私に向けられたのは、野次馬のスマホと救急隊のブルーシートだった。原因は、貧困により命を繋ぐ薬を変えたこと。制度と医療の狭間で起きた、実在の夜の記録。

その夜、私は新宿の雑踏の中で「死体」として扱われた。

冬の歌舞伎町。乾燥した冷たい風が吹いていた。
安宿のカプセルホテルへ戻る途中、私はただ鼻をかんだだけだった。
次の瞬間、白いダウンジャケットは鮮血で真っ赤に染まり、
足元には赤い水溜まりが広がっていく。
貧血で崩れ落ちる私の周囲に集まったのは、心配する声ではなく、
スマホのカメラを向ける人たちだった。

路上に倒れ、向けられたスマホ

事件?
倒れてる。
自殺じゃない?

薄れていく意識の中で、言葉だけが断片的に耳へ届く。
新宿のゴールデンタイム。
血まみれでうずくまる私は、ただの見世物だった。

助けを呼ぶ声も出せず、
私はアスファルトの冷たさと、自分の血の生温かさだけを感じていた。

ブルーシートに覆われた身体

駆けつけた救急隊員は、手際よく私をストレッチャーに乗せ、横向きにした。
血液を喉に詰めないための、正しい処置だ。

その直後、視界が青一色に閉ざされた。

ブルーシート。

野次馬の視線から守るためだと分かっていても、
その感触は、死体を覆うそれと同じだった。

暗闇の中で、私は声にならない声で叫んでいた。

私は、まだ、生きているのに。

薬が買えなかった、それだけのこと

理由は、驚くほど単純だった。

お金がなかった。

私は希少な血液難病とホルモン疾患を抱えている。
出血をコントロールするには、高価な薬が必要だった。

仕事を失い、収入が途絶え、
地方から都内への通院を続ける中で、
新幹線代、ホテル代、検査費、夜間診療費、薬代が積み重なっていく。

分かっていた。
安い薬に変えれば、出血リスクが跳ね上がることを。

それでも、選ぶしかなかった。

命の値段を、払えなかった。
その結果が、この歌舞伎町の路上だった。

見えない病気と、見た目のギャップ

元気そうに見える。
それは、何より強固な仮面だった。

普通の薬が効かない人間だと知られたくなかった。
治療費が払えないと言えなかった。

内部疾患は、外から見えない。
だから、倒れるまで「大丈夫な人」でいられてしまう。

ブルーシートの下で、私は思っていた。
社会の隙間に落ちるとは、こういうことなのか、と。

終わりに|死体ではなく、生きている人間として

あの夜の感触を、私は一生忘れないと思う。

これは病気のせいだけではない。
制度の狭間、医療アクセスの差、
フリーランスに保障のない社会、
そして、見た目と現実の乖離。

それらすべてが重なって起きた出来事だった。

闘病とは、病気と向き合うことだけではない。
生活と、制度と、感情と向き合いながら、
それでも生きていくことだ。

この記録が、
同じように見えない場所で踏みとどまっている誰かの、
孤独を少しだけ軽くできたなら。

私は、あの夜を言葉にした意味があったと、
そう思える気がしている。

  • Sound of Life

    物語のためのサウンドトラック

    「透明な履歴書」には、言葉にならない感情を託した「主題歌」があります。 限られた時間の中で録音された、祈りのような3つの旋律。 それぞれの物語の湿度に合わせて、静かに添えました。

  • Voice / Reading

    朗読:「透明な履歴書」

    (Coming Soon / 順次公開予定)

    川島琴里の声による朗読と、エピソードトーク。 現在、一つひとつの物語に音を灯す準備をしています。 完成したエピソードから、この場所で公開されていきます。

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    読者参加企画:#あなたの透明な履歴書

    あなたの「影」の物語を、教えてください。 履歴書には書けなかった空白、誰にも言えなかった葛藤、そして再生の瞬間。
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著者川島琴里

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